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親の住宅ローン、子どもに支払い義務はあるのか?

高齢の親をもつ子の立場から、「もし親が住宅ローンを払えなくなったら」「親が亡くなったあと、ローンが残っていたら」と不安に感じたことはないでしょうか。とくに、親が多額のローンを抱えている場合、子である自分が返済を肩代わりしなくてはならないのか、法的な義務はあるのか、気になるかたも多いはずです。

結論からいえば、子が「連帯保証人」になっていないかぎりは、親が存命中に返済を法的に強制されることはありません。しかし相続が発生したときや、特殊なローン契約を結んでいる場合は注意が必要です。

この記事では、親の住宅ローンに対する子の支払い義務について、法的な面と現実的な対処法を詳しく解説します。

連帯保証人かどうかで義務の有無が決まる

親の住宅ローンで子に支払い義務が発生するかどうかを分ける最大のポイントは、その契約時に子が「連帯保証人」になっているかどうかです。

子どもが連帯保証人であれば支払義務あり

もし親の住宅ローンの連帯保証人になっている場合、連帯保証人である子どもは法的に親(主債務者)と全く同じ返済義務を負います。 連帯保証人には、主債務者(親)に経済的な余裕がある場合でも、先に親に返済請求するよう求めたり、親の財産を先に差し押さえるよう求めたりする権利が一切ありません。そのため、債権者は親の住宅ローンについて連帯保証人である子に全額返済を請求することができるのです。

保証人でなければ原則として支払い義務なし

連帯保証人ではなければ、たとえ親子でも法的な支払い義務はありません。ただし、子が任意で返済を援助(肩代わり)する際には、「贈与税」に注意が必要です。親名義のローンを子が返済すると、親への資金贈与とみなされる可能性があります。一般的に親子間には扶養義務があり、生活困窮する親への生活費の仕送りは非課税です。しかし、その資金がローンの返済に充てられ親の財産維持につながる場合や、一度に多額の現金を渡す行為は贈与税の対象と判断されるリスクがあるため注意しましょう。

信用情報で確認する方法(JICC・CIC・KSC)

連帯保証人になったかどうかの記憶が曖昧な場合は、信用情報機関へ情報開示請求をすれば確認できます。信用情報とは、ローンやクレジットカードの契約・支払い状況を記録したデータです。

信用情報機関は主に以下の3つで、加盟業種が異なります。

1.KSC(全国銀行個人信用情報センター)

主に銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関などが加盟しています。住宅ローンや銀行カードローンの情報はここに登録されている可能性が高いです。

2.CIC(株式会社シー・アイ・シー)

主にクレジットカード会社、信販会社、消費者金融などが加盟しています。

3.JICC(株式会社日本信用情報機構)

主に消費者金融会社が加盟していますが、信販会社や銀行も加盟している場合があります。

これらの情報の中に連帯保証契約も個人の信用情報として登録されています。確実を期すためには、3機関すべてに開示請求をおこなうのがよいでしょう。開示請求は、各機関のウェブサイトからインターネット(スマホアプリ含む)または郵送で申し込むことができます。インターネット開示は手数料500円〜1,500円程度で、本人認証を行えば数時間で結果を確認できることもあります。郵送の場合は、1,500円程度の手数料と本人確認書類のコピーなどが必要で、結果の到着まで1週間〜10日ほどかかります。

親子リレーローンを組んでいる場合の注意点

連帯保証人以外にも、子が返済義務を負うケースがあります。それが「親子リレーローン」を組んでいる場合です。

二世代で返済を前提としたローンの仕組み

親子リレーローンとは、親から子へと返済を引き継ぐ(リレーする)ことを前提とした住宅ローン契約です。契約当初は親が主債務者として返済を開始し、親が定年退職するタイミングや一定の年齢になった時点で、子が債務を引き継ぎ、完済まで返済を続けます。このとき、子は「連帯債務者」または「連帯保証人」として契約に参加します。このローンのメリットは、親子の収入を合算して審査を受けられるため、借入可能額を大幅に増やせる点です。また、子の年齢をもとに返済期間を設定できるため、親が高齢であっても長期のローンを組むことが可能です。

途中で親が払えなくなった場合、子に返済義務が発生

親子リレーローンにおいて、子は単なる保証人ではなく、親と一体となって債務を負う契約者です。そのため、まだ返済の引継ぎ時期が来ていなくても、最初の返済者である親が病気や失業などで返済できなくなった場合、金融機関はただちに子に対して返済を請求します。これは契約上の正規の義務であるため、拒否することはできません。

親の死後に住宅ローンが残っていた場合の対応

連帯保証人や親子リレーローンでなければ、親の存命中は子に支払い義務はありません。しかし、親が亡くなり「相続」が発生すると状況が変わります。

相続によってローンも引き継がれる可能性

相続とは、亡くなった人の財産を引き継ぐことです。この「財産」には、預金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローンといったマイナスの財産もすべて含まれます。親が住宅ローンを残したまま亡くなった場合、法定相続人である子どもは、その住宅ローン(マイナスの財産)も、家や預金(プラスの財産)とあわせて相続することになります。もし相続人が複数いる場合は、法定相続分に応じてローンも分割して引き継ぐのが原則です。

相続放棄すればローンの支払い義務も回避可能

「プラスの財産より、ローンの残高のほうが明らかに多い」という場合、相続人は「相続放棄」という手続きをとることができます。

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない、と意思表示することです。相続放棄が家庭裁判所に認められれば最初から相続人ではなかったことになり、住宅ローンの返済義務も負いません。

ただし相続放棄には厳格なルールがあり、自分が相続人になったことを知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。また、相続放棄をする前に、親の預金を使ってしまったり、不動産を売却してしまったりすると、相続を承認したとみなされ、放棄が認められなくなるため注意が必要です。

団体信用生命保険があればローンが完済されるケースも

親が住宅ローンを残して亡くなった場合は、まず「団体信用生命保険(団信)」の加入有無を確認しましょう。団信とは、契約者が死亡または所定の高度障害状態になった際、保険金でローン残高が完済される仕組みの生命保険です。親が団信に加入していれば死亡時にローンは完済され、子はローンのない不動産のみを相続できます。ただし、ローンの種類によっては団信未加入であったり、ローンの長期間滞納により団信契約が失効していたりする可能性もあるため、確認が必要です。

住宅ローン問題の現実的な解決策とは?

もしも親の住宅ローン返済が苦しくなった場合、競売(けいばい)という最悪の事態に至る前に、現実的な解決策を講じることが重要です。

任意売却でローン問題を整理する

住宅ローンを滞納し続けると、最終的に家は差し押さえられ「競売」にかけられます。競売を避けるための最も有効な手段が「任意売却」です。

任意売却とは、返済困難時に債権者(金融機関)の合意を得て一般の売却と同じように家を売却する方法です。任意売却の最大のメリットは、競売に比べて市場価格に近い価格で売却できる可能性が高い点です。高く売却できれば、ローンの残債をそれだけ減らせます。また競売のように情報が公開されないため、近所に知られずに売却を進めやすい利点があります。さらに売却後の残債の返済計画についても、金融機関と交渉がしやすい点も特徴です。

競売のリスクと回避方法

住宅ローンの滞納が約3ヶ月〜6ヶ月続くと、債権は銀行から保証会社に移ります(代位弁済)。その後も一括返済の請求に応じられない場合、保証会社によって裁判所に競売の申立てがおこなわれます。競売の最大のリスクは売却価格が非常に安くなることで、一般的には市場価格の5割〜7割程度の価格でしか売れないともいわれています。家を失ったあとも多額のローン残債が残り、その返済に苦しむことになります。さらに家の情報や写真は裁判所の不動産競売物件情報サイトでインターネット上に公開され、心理的にも大きな負担となりかねません。この競売を回避するためには、一刻も早く金融機関に相談し、任意売却の手続きに移行することが不可欠です。

相続前・親の生前から準備しておく重要性

相続が発生してしまうと、親の住宅ローン問題の解決は「相続放棄」という選択肢しか残されていない場合があります。そうなる前に、親が元気なうちから家族で話し合っておくことが重要です。もし返済が苦しいようであれば、子が買い取る形での「親族間売買」や、家を売却したうえで家賃を払って住み続ける「リースバック」など、任意売却を含めたさまざまな選択肢を検討することができます。

問題を先送りにせず、親子で情報を共有し、早めに専門家に相談することが、最悪の事態を避けるための鍵となります。

まとめ

親の住宅ローンについて、子が連帯保証人になっていないかぎり、法的な支払い義務はありません。しかし親子リレーローンを組んでいる場合や、親が亡くなって相続が発生した場合は、子がローンを引き継ぐ可能性があります。もし親が亡くなった場合は、まず団信の加入の有無を確認し、ローンが完済されるかを確認しましょう。ローンが多額に残る場合は相続放棄も選択肢となります。

住宅ローン返済は放置すれば競売が発生し、市場価格より大幅に安い価格で家を失うことになります。そうなる前に、市場価格に近い価格で売却できる任意売却などの選択肢を検討することが、現実的かつ有効な解決策といえるでしょう。