自己破産すると引っ越し費用はどうなる?そもそも引っ越しできるの?
借金の返済が困難になって自己破産という選択肢を検討するとき、まず直面するのは「現在の住まいをどうするか」という問題です。とくに家賃を滞納していたり、住宅ローンの返済が苦しかったりという状況では、引っ越しやその費用に関する問題は切実な課題となります。この記事では、自己破産手続きと引っ越しの関係、手続き、そして費用の捻出方法の注意についてわかりやすく解説いたします。
自己破産しても引っ越しは可能
結論からいうと、自己破産をしても引っ越しをすることは可能です。日本国憲法では「居住移転の自由」が認められており、自己破産という法的な手続きによっても、その権利が根本から奪われることはありません。ただし誰でもいつでも自由に引っ越せるわけではなく、手続きの進行状況や個人の財産状況によっては、裁判所の許可が必要になるなどの一定の制約がともないます。
また、転居の手続きとは別に、新しい住まいの賃貸契約を結ぶためには審査というもうひとつのハードルが存在することも事実です。賃貸契約時には通常、「入居審査」が行われますが、このとき月々の家賃支払いのために「家賃保証会社」の利用を求められることがほとんどです。この家賃保証会社にはいくつかの種類があり、自己破産をした場合には審査への影響が考えられます。とくに「信販系」と呼ばれる、クレジットカード会社やその関連会社が運営する保証会社は、審査の際に個人の信用情報を必ず確認します。信用情報とは、個人のローンやクレジットカードの利用履歴を管理する機関に登録された利用状況のことです。自己破産をすると、この信用情報機関に「事故情報」として登録されてしまいます。これがいわゆる「ブラックリストに載った」という状態であり、信販系の保証会社を利用している物件の審査に通ることはきわめて難しくなります。
自己破産で引っ越しが必要になるケース
現在の住まいが賃貸か、持ち家かによって、家を手放す際の事情が異なります。
賃貸物件の場合
家賃の滞納が続くと、貸主(大家)は賃貸借契約を解除し、物件の明け渡しを求めてくることが一般的です。滞納した家賃は、自己破産の手続きにおいて免責(支払い義務がなくなること)の対象となりますが、それとは別に明け渡し義務(物件から退去して貸主に返す義務)は残ります。そのため家賃滞納を理由に契約を解除された場合は、退去して引っ越す必要があります。
持ち家の場合
住宅ローンを組んで持ち家を購入した場合、その家には通常、貸し手である金融機関の「抵当権」という権利が設定されます。ローンの返済が滞った場合には、金融機関はこの抵当権を行使し、家を差し押さえて売却することで融資した資金の回収を図ります。このとき、家を売却する主な方法には「競売」と「任意売却」の2つがあります。
「競売」は、裁判所の主導で行われる入札形式の売却方法です。手続きが法的に進められますが、売却価格が市場の相場よりも安くなる傾向があるほか、売却情報が一般に公開されるため、近所に事情を知られてしまう可能性があります。
一方の「任意売却」は、金融機関の合意を得たうえで、通常の不動産売買と同じように市場で売却する方法です。競売に比べて市場価格に近い値段で売れる可能性が高く、非公開のためプライバシーが守られやすいという利点があります。また、買主との間で、売却のタイミングや引っ越しの時期について柔軟に交渉しやすい点も大きな特徴です。
どちらの方法をとるにせよ、最終的に家を手放すことに変わりはないため、新しい住まいへの引っ越しが必須となります。
自己破産手続き中は引っ越しに許可が必要なことも
自己破産の手続きには「管財事件」と「同時廃止事件」の2種類があり、裁判所がそのどちらを選択するかによって引っ越しの手続きが異なります。
所有する財産が少ない場合などに適用される「同時廃止事件」では、裁判所の許可なく引っ越しができます。ただし、手続き中に住所が変わったことは、住民票などの書類を添えて裁判所に報告する必要があります。
一方で、一定以上の財産がある場合などの「管財事件」では、破産管財人が選任され、その監督のもとでより厳密な手続きが行われます。この手続き中は、財産の隠ぺいや調査の遅滞を防ぐために裁判所の許可なく居住地を離れることが制限されており、引っ越しには裁判所の許可が必要です。無断で引っ越してしまうと、最悪の場合、免責(借金の返済義務がなくなること)が認められない可能性もあります。もし引っ越す際には必ず事前に破産管財人へ相談して裁判所への申立をしてもらいましょう。
自己破産したときの引っ越し費用はどうなる?
自己破産をすると、生活に最低限必要なもの(99万円以下の現金や家財道具など)を除いた財産は処分され、債権者への返済にあてられます。ここで手元に残せる財産を「自由財産」といいます。原則として、引っ越し費用をこの自由財産とは別に確保することは認められていません。
しかし、持ち家を処分する場合は、自己破産の手続きが始まる前に「任意売却」を行うことで、引っ越し費用を捻出できる可能性があります。任意売却とは、債権者である金融機関などの合意を得て、競売ではなく市場で不動産を売却する方法です。売却代金は債権者の返済にあてられますが、このとき債権者の交渉次第で、売却代金の中から引っ越し費用を支払うことを認めてもらえる場合があります。ただし、これはあくまでも債権者の厚意によるものであり、必ずしも法的に保証された権利ではないことは理解しておきましょう。
まとめ
自己破産の手続き中でも、あるいは手続き後であっても、引っ越しをすることは可能です。しかし、手続きの種類によっては裁判所の許可が必要な場合があります。また、引っ越しを行う際の費用は最低限の自由財産からまかなう必要があり、原則として自己負担です。ただし、持ち家にお住いの場合は自己破産前に任意売却をすることで売却代金から引っ越し費用を捻出できる可能性があります。手続きをスムーズに進め、生活を再建するためにも、自己破産や任意売却を検討する際は、早いうちに弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。