終活で不動産売却を考える前に知っておきたいポイント
人生の終わりに向けて身の回りを整理する「終活」が、多くの人にとって身近になってきました。そのなかでも、とくに大きな課題となるのが不動産整理です。持ち家は大切な資産であると同時に、老後の生活において不安要素となる側面も持っています。管理や維持費の負担、そして自分が亡くなった後の相続トラブルや、誰も住まない空き家になってしまうリスクは、多くの方が漠然と抱える悩みではないでしょうか。この記事では、終活の一環として不動産売却を考えるメリットや注意点、そして売却以外の選択肢について、現実的な視点から解説していきます。

終活で不動産を売却するメリットと注意点
不動産を整理するうえで最も一般的な方法は「売却」です。終活における売却は老後の生活設計と将来の相続に大きなメリットがありますが、税金や手続きなど、知っておくべき注意点もあります。
現金化することで生活の安定を図れる
不動産売却の最大のメリットは、まとまった現金を手にできることです。老後の生活資金、とくに医療費や介護費用、あるいは高齢者向け施設への入居費用など、将来必要となる支出に備えることができます。また、不動産を所有しているかぎり発生する固定資産税や、マンションの管理費・修繕積立金、経年劣化にともなう修繕費といった維持費の負担からも解放されます。これにより、金銭的な不安が軽減され、生活の安定につながります。
相続人のトラブル回避になる
不動産は、預貯金のように簡単に分割することができません。複数の相続人がいる場合、誰がその不動産を相続するのか、あるいは売却して分けるのかで意見が対立しやすく、「争族」とも呼ばれる深刻なトラブルに発展するケースも少なくありません。生前に不動産を売却して現金化しておけば、遺産分割が容易になり、相続人同士の無用な争いを未然に防ぐことができます。
売却時の税金や手続きに注意が必要
不動産を売却して利益が出た場合、その利益に対して所得税や住民税が課税されます。ただし、ご自身が住んでいた家を売却する場合は、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例(3,000万円特別控除)が使える可能性があります。この特例の適用には「住まなくなってから3年目の年末までに売却する」などの要件があるため、注意が必要です。また、税率は不動産の所有期間によって大きく異なります。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡所得」(税率約20%)、5年以下であれば「短期譲渡所得」(税率約39%)となり、税負担が倍近く変わってきます。
これらの税制度で不明な点があれば、専門家のアドバイスを受けるのがよいでしょう。不動産の売却手続きには数ヶ月単位の時間がかかるため、終活として売却を考える場合は、早めに動き出すことが大切です。
売却以外の選択肢もある|自宅に住み続ける方法とは?
「老後資金は必要だが、住み慣れた家を離れたくない」と考える人は多いでしょう。そうした場合、売却以外の方法を検討する余地もあります。
老後資金を得ながら住み続けられる「リースバック」
リースバックは、自宅を不動産会社や投資家に売却し、同時にその買主と賃貸借契約を結ぶことで、売却後も家賃を払いながら同じ家に住み続けられる仕組みです。
仕組みとメリット・デメリット
リースバックでは、まず自宅をリースバック運営会社(買主)に売却して現金を受け取ります。その後、その会社と賃貸借契約を結び、毎月家賃を支払うことで、元の自宅に住み続けるという流れになります。
最大のメリットは、売却資金を得ながら住環境を変えずに生活を続けられる点です。高齢になると新規の賃貸契約が難しくなることがありますが、リースバックならその心配がありません。また、所有者でなくなるため、固定資産税や修繕費の負担もなくなります。
その一方で、デメリットも存在します。売却価格は通常の市場価格よりも安くなる傾向があります。また、毎月の家賃が発生し、その金額が周辺の家賃相場より高く設定されるケースもあります。さらに、賃貸借契約が定期借家契約の場合、契約期間が満了すると更新できずに退去しなければならないリスクもあるため、契約内容の確認が非常に重要です。
高齢者にとっての安心材料になるケースも
リースバックは金融機関のローンのような年齢審査がないため、高齢者でも利用しやすい資金調達方法です。将来的に高齢者向け施設への入居を考えている場合でも、入居一時金の確保や、施設に空きが出るまでの「つなぎ」として自宅に住み続けるために活用することも可能です。ただし、前述の通りデメリットもあるため、契約は慎重におこなう必要があります。
住宅ローンが残っている場合の選択肢
「住宅ローンがまだ残っているが、そろそろ終活を考え始めたい」というケースはけして珍しくありません。
終活時にローンが残っている人が増加中
住宅購入年齢の上昇や長期ローンが一般化したことから、定年退職後もローンの返済が続く人が増えています。借り入れ時は退職金で一括返済する計画を立てていても、老後の生活資金が不足するリスクがあるため慎重な判断が求められます。まずは、ローンが「あとどれくらい残っているのか」を正確に把握することが、不動産整理の第一歩です。
売却でローン返済が難しいなら「任意売却」も視野に
家を売却しても住宅ローンの返済が難しい場合、「任意売却」という選択肢があります。
任意売却とは何か?
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になったとき、融資を受けている金融機関(債権者)の合意を得たうえで、ローン対象の不動産を売却する方法です。強制的に行われる競売とは異なり、一般的な売却と同じような形で買主を募集し、市場価格に近い価格で売却できる可能性が高いのが特徴です。また、競売のように情報が大きく公表されないため、プライバシーが守られやすいというメリットもあります。
自己破産との違いや影響
任意売却と自己破産は、まったく異なる手続きです。任意売却はあくまで「売却」であり、売却後もローン残債の支払い義務は残ります。ただし、債権者と交渉して無理のない範囲での分割返済に応じてもらえるケースが一般的です。信用情報にも記録されますが、自己破産のような職業制限はありません。自己破産は、裁判所に申し立てて借金の支払い義務を免除してもらう法的手続きです。これが認められると、不動産を含む一定以上の価値がある財産は処分されます。また、手続き中は弁護士、警備員、保険外交員など一部の職業に就けなくなる制限があります。任意売却は、こうした深刻な事態を避けるための選択肢といえます。
家族と話し合っておくべきポイント
終活における不動産整理は、決して一人で進めるべきではありません。包み隠さず家族と話し合うことが不可欠です。
「売る/残す」の判断を一人でしない
本人が「売却したい」と考えても、家族、とくに相続予定の子どもたちは「実家を残したい」「将来住みたい」と考えているかもしれません。不動産には金銭的価値だけでなく、家族の思い出もあります。自分の判断だけで売却を進めると、後々家族との関係に亀裂が入りかねません。
同居家族・相続予定者と情報共有
まずは、不動産の現状について家族全員で情報を共有することが大切です。住宅ローンの残高、固定資産税の額、建物の状態(修繕が必要か)、権利関係(共有名義になっていないか)など、正確な情報を集めて開示しましょう。そのうえで、売却するのか、誰かが住むのか、あるいは賃貸に出すのか、全員で話し合う場を持つことが重要です。
早めの準備で選択肢が広がる理由
こうした話し合いや準備は、心身ともに元気なうちに始めることが何よりも大切です。もし認知症などで判断能力が低下してしまうと、不動産の売却や贈与といった契約行為そのものができなくなってしまいます。そのため家を売却したくてもできず、空き家になってしまうリスクが高まります。早めに話し合い、方針を決めておくことで、「売却」「生前贈与」「リースバック」「遺言書の作成」など、多くの選択肢のなかから最善の方法を選ぶ時間的・精神的な余裕が生まれます。
まとめ
終活の不動産整理は、老後の生活を安定させ、次世代へ円満に資産を引き継ぐために非常に重要です。売却して現金化するメリットは大きいですが、税金や手続きの知識も必要です。リースバックのように住み続ける選択肢や、ローンが残る場合の任意売却という手段もあります。どの方法を選ぶにせよ、最も大切なのは「住宅ローン残高の把握」と「家族との早めの話し合い」です。判断に迷うことや手続きが複雑な場合は、不動産会社や司法書士といった専門家に相談することも検討しましょう。元気なうちに将来の不安を整理することが、ご自身とご家族の安心につながります。