任意売却

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管財人による任意売却の流れ

もしも自己破産を考える場合、所有している不動産の扱いは大きな問題のひとつです。競売による強制売却など不安に思うことも多いでしょう。自己破産の際に裁判所から選任される破産管財人は債務者の財産を適切に現金化し債権者へ配当する重要な役割を担います。そのなかで管財人による不動産の処分方法として、競売ではなく任意売却が選択される場合もあるのです。本記事ではこの管財人による任意売却の具体的な流れやメリット、知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。

管財人とは?

まず、「管財人」とはどのような役割を担うのでしょうか。

管財人(正式名称:破産管財人)は、自己破産の手続において一定の条件を満たす際に裁判所から選任される弁護士のことです。破産手続全体の進行を円滑にし、債権者と債務者双方の権利と利益のバランスを保ちながら公正な解決を目指すという職務です。

自己破産の手続には大きく分けて「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類があります。

・同時廃止事件:債権者へ配当できるほどの目立った財産がほとんどなく、借金の原因に免責事由が考慮される場合に適用される手続です。

・管財事件:債務者に一定以上の財産がある場合や、免責不許可事由が疑われる場合などに適用される手続です。

裁判所によって管財事件と決定されれば、該当地域に勤務する弁護士の中から管財人が選任されます。同時廃止事件と管財事件のどちらになるかは裁判所の判断に委ねられ、債務者や債権者が選択することはできません。

管財人は債務者が所有する不動産を含むすべての財産を調査し、その種類や所在、資産価値をまとめ、破産財団(債権者への配当に充てられる財産)を確定します。これをもとに財産の処分を行う中で、管財人は最も良い条件となる処分方法を選定する役割もあり、不動産処分のために競売よりも高い価格で売却が見込まれる「任意売却」が選択される場合もあります。

管財人が任意売却を行うケース

自己破産の申し立てを行い、裁判所によって「管財事件」の決定を受ければ管財人が選任されます。管財事件と判断されるための基準は、主に所有している財産の有無や価値、そして免責不許可事由の有無や程度によります。管財事件とされるための基準には、一般的には下記のような例が挙げられます。

一定以上の財産がある

多額の預貯金や財産などの財産を所有している場合です。通常の基準として、33万円を上回る現金を所有している場合が該当します。また預貯金や保険の解約払戻金、および処分価値のある不動産や車などの換金が見込まれる資産がある場合はその総額が20万円を上回る場合が該当します。

免責不許可事由がある

自己破産の原因に酌量の余地がないとされる場合や、債務の返済を故意に妨げた疑いがある場合です。例えば借金の主な原因がギャンブルや過度な浪費である場合はこれに該当します。また、偏波返済(特定の債権者にだけ返済を優先すること)、破産手続を妨害する行為や財産を隠匿する行為も免責不許可事由とみなされます。

これらは一般的な目安であり、具体的な判断は各裁判所や個々の状況によって異なります。自己破産を検討する際は専門家にあらかじめ相談しましょう。管財人は債務者と債権者双方に最大の利益がもたらされるよう努め、その上で妥当と考えられる場合には不動産の任意売却も選択肢のひとつとなるのです。

管財人による任意売却の流れ

自己破産後は管財人が財産の処分を行います。基本的にほとんどの手続きや処理については管財人が請け負い、債務者が行うことはありません。管財人によって任意売却が行われる具体的な流れをステップごとに見ていきましょう。

1.破産手続開始決定

債務者が自己破産を申し立て、裁判所が破産手続開始決定を出すと同時に破産管財人が選任されます。まずは破産者と管財人の面会が行われ、財産の所在や権利関係などをヒアリングします。これをもとに管財人が債務者の財産状況を調査し、不動産の有無や評価額を確認するため、不足なく伝えるようにしましょう。この面談時に不動産に関する書類などを引き渡す必要があります。必要なものは所有不動産に関する登記識別情報、売買契約書、ローン返済計画書、建物の鍵なども含まれます。引き渡しの対象書類は管財人から伝えられるので、漏れのないよう用意しましょう。

2.不動産の査定と任意売却の準備

必要書類の受け渡し後は管財人が任意売却を含むその後の手続を行います。管財人は財産処分の準備のひとつとして、不動産の査定を不動産会社に依頼します(任意売却の相場価格は通常の市場価格の8〜9割程度が一般的です)。任意売却を行う場合は、抵当権者などの債権者に対して任意売却の意向を伝え、同意を得る必要があります。債権者の同意が得られれば管財人は不動産会社と媒介契約を締結し任意売却を開始します。

ただし注意しておきたい点として、債権者の同意がスムーズに得られない場合も存在するのです。例えば債権者が売却代金からの配当額に納得しない場合や、担保権者が不動産の売却に協力する代わりとして承諾料(いわゆるハンコ代)を要求する場合、交渉が難航し任意売却の機会を逸してしまう可能性がある場合も起こり得ます。こういった場合に通常は債権者の同意なしに任意売却を行うことはできません。しかし管財人がいれば、裁判所に対し「担保権消滅の許可の申立て」を行うことができます。この申立てが認められれば担保権者の同意がなくても裁判所の決定によってその不動産に設定されている担保権を消滅させ、任意売却を進めることが可能になります。

3. 購入希望者の募集

債権者の同意が得られれば、管財人は任意売却を専門とする不動産会社と媒介契約を締結します。この媒介契約は通常の不動産売買と同様に締結されますが、売主は債務者(所有者)ではなく管財人となります。媒介契約後、不動産会社は本格的な販売活動を開始します。具体的には不動産情報サイトへの掲載、チラシの配布、現地看板の設置などを通じて買主を募集し、内覧希望者があれば管財人や不動産会社が立ち会いのもと物件を案内します。

4. 売買契約の締結

買主が見つかり、売買条件が合意に至れば、売買契約を締結します。この際に通常の不動産売買と同様に重要事項説明が行われます。管財人がいる場合は管財人が売主となるため、この売買契約は裁判所の許可が必要となります。裁判所は売却価格が適切であるか、債権者への配当に問題がないかなどを審査します。

5. 決済と引渡し

裁判所の許可が下りれば、決済(売買代金の支払い)と所有権移転登記の手続を行います。買主からの売買代金は、通常、管財人の口座に入金されます。入金後、管財人はその代金をもって各種費用の精算や、債権者への配当を行います。債務者(元所有者)は、合意した期日までに不動産を明け渡し、買主へ引き渡す必要がありますので準備しておきましょう。決済・引き渡しの際には、原則として破産者が立ち会う必要があります。これをもって任意売却の完了となりますが、任意売却には一般的に半年〜1年程度かかるとされます。

疑問と注意点

管財人による任意売却は通常の不動産売却とは異なる側面も多いため、様々な疑問が生じやすいものです。ここではよくある疑問や注意点を紹介します。

Q:任意売却にメリットはありますか?

A:自己破産における任意売却では競売に比べて、より市場価格に近い金額での売却が期待できます。引渡しの時期や条件についても、競売よりも柔軟に調整できる可能性があるため引越しの準備期間を確保しやすくなるなど売却時に有利な点があります。さらに競売のように物件情報や債務者の情報が広く公開されることがないため周囲に知られにくいというプライバシー保護の利点もあります。

Q:管財人による任意売却は、必ず行われるのですか?

A:いいえ、必ずではありません。自己破産手続きにおいて不動産を所有している場合、その処分は管財人の判断に委ねられます。管財人は不動産の価値や、売却にかかる費用、債権者への配当の見込みなどを総合的に判断し、競売にするか、任意売却にするか、あるいは価値がないとして破産財団から放棄するかを決定します。一般的に、任意売却によって競売より高く売却できる見込みがあれば、任意売却が選択される可能性が高まります。

Q:売却にかかる費用(仲介手数料など)は誰が負担しますか?

A:売却にかかる費用は、原則として売却代金の中から支払われます。不動産会社の仲介手数料、登記費用(所有権移転登記、担保権抹消登記など)、印紙税などは、売却によって得られた代金から優先的に充当され、残りが債権者への配当に回されます。債務者がこれらの費用を直接負担することはありません。

Q:任意売却が成立しなかった場合、どうなりますか?

A:任意売却が成立しなかった場合、管財人は他の処分方法を検討することになります。最も一般的なのは、競売に移行することです。競売は裁判所が強制的に売却を行う手続であり、任意売却よりも売却価格が低くなる傾向があります。また不動産の価値が極めて低い場合は、管財人が不動産を破産財団から放棄し、債務者に返還される(ただし、担保権は残る)というケースもあります。

Q:任意売却後の残ったローン(残債)はどうなりますか?

A:自己破産の手続きによって、残った住宅ローンを含むすべての借金が免責され、支払い義務はなくなります。自己破産を選択する際には、任意売却によって不動産を売却してもその代金でローンを全額返済できない「オーバーローン」の状態がほとんどですが、自己破産の免責許可決定が出れば残りのローンの支払い義務も消滅します。また財産は管財人の管理下に置かれるため、債権者とのやり取りも管財人を通じて行われるようになります。

まとめ

管財人による任意売却は、自己破産における不動産の処分方法のひとつであり、競売と比較して債務者にとって多くのメリットがある可能性があります。しかし管財人が選任されるか、不動産について任意売却が行われるかは裁判所や管財人の判断によって異なります。

もし自己破産を検討中で不動産を所有している場合は、まずは弁護士に相談し、ご自身の状況に合わせた最適な方法を検討することが最も重要です。専門家と協力しながら適切な手続きを進めることで不安を解消し、新たなスタートへと進んでいきましょう。